脳神経外科医|大森一美公式WEBサイト

治療困難な脳動脈瘤とは

脳動脈瘤とは

 脳動脈瘤とは脳の動脈の分岐部にコブができた状態のことをいいます。脳動脈瘤の成因は明らかではありませんが、一般に動脈分岐部の壁に先天的に弱い部分があり、そこに血液の流れ、年齢による動脈硬化や高血圧などが加わって動脈瘤が発生すると考えられています。脳動脈瘤自体は無症状のことがほとんどですが、まれに脳神経を圧迫して脳神経麻痺症状をきたすこともあります。

 なぜ脳動脈瘤が問題になるか、それはくも膜下出血の原因となるからです。動脈瘤の壁は通常の血管に比べ弱く破れやすい状態で、普段無症状であってもある日突然破裂してくも膜下出血を生じる可能性があります。脳動脈瘤が破裂すると死亡したり、重篤な後遺症を生じることが多くあります。普通、脳動脈瘤はクモ膜下出血を生じた後に発見されることがほとんどですが、最近CTスキャンやMRIなどの診断技術の進歩で破裂する以前に発見される機会が増加しており、成人人口の2~4%に発見されるといわれています。

 発見されたすべての未破裂動脈瘤が破裂するわけではありませんが、くも膜下出血を生じると約30~50%の人が初回破裂時に死亡するといわれています。具体的に患者さんの脳動脈瘤がいつ破裂するか、あるいは破裂しないかは現在の医学水準では予測不可能です。未破裂動脈瘤が破裂に至る確率は高くはありませんが、10年、20年という単位で考えると脳動脈瘤が破裂し死亡したり、重篤な後遺症をもたらす可能性は無視できないと考えられます。 脳動脈瘤に対する治療の目的は破裂することを防止することです。破裂を防ぐためには、瘤内の血流を遮断する必要があります。それには開頭して行うクリッピング術と、カテーテルで治療するコイル塞栓術があり、現在ではほとんどの動脈瘤をカテーテル治療で行うことができます。ただし、現在の最先端をもってしても治療困難な動脈瘤が存在するのです。

<代表例>

・解離性動脈瘤
・巨大動脈瘤(血栓化を含む)

これらの場合、直達手術(開頭術)が必要となるのですが、カテーテル治療がメインとなっている昨今では、動脈瘤に安全に到達することが困難な施設(病院)が増えています。


実際の手術について

■解離性動脈瘤の場合

解離(血管が裂けている)部位にクリッピングと呼ばれる従来の方法では治療が不可である場合が多く、血行再建術を要します。

<具体的な方法>

  • 全身麻酔下にまず血行再建に用いる血管(グラフト)を採取します。多くの場合、前腕を走行する橈骨動脈や、大腿部を走行する大伏在静脈を使用します。
  • 開頭術を行い、解離血管にアプローチします。
  • 頸部で外頸動脈を確保し、採取したグラフトを用いバイパスを作成します。
  • バイパス作成後、解離部位を遮断(トラッピング)し、血行再建を完成させます。
  • 硬膜を縫合し、頭蓋骨をチタン製のプレートでネジ固定します。
  • 骨膜、筋層ごとに閉じ、皮下にドレーンを留置し、皮膚を閉じて手術を終了します。

 

■巨大動脈瘤の場合

 単純な開頭術でアプローチできることが少なく、頭蓋底外科領域のテクニックを用い、頭蓋底部をドリルで削り、動脈瘤にアプローチします。

それでもクリッピング術が困難な場合、先に述べた方法を用い、血行再建を併用することもあります。



頭蓋底技術を用いクリッピングした巨大動脈瘤の3DCT


開頭による脳動脈瘤クリッピング術および血行再建術の合併症について

①手術中、手術後の頭蓋内出血、脳梗塞、手術による脳損傷

 脳動脈瘤クリッピング術の際最も問題となるのは手術中、手術後の頭蓋内出血と脳梗塞です。一度破裂した動脈瘤は出血しやすく、手術中に動脈瘤に到達する前に破裂した場合に出血が止められなくなったり急速に脳の腫れが強くなり手術ができなくなる可能性があります。手術中に脳を栄養する動脈を損傷しその結果脳梗塞を生じる危険性もあります。
 また、いかに注意深く完全な手術をしたとしても、手術後に脳内出血などの頭蓋内出血が生じる可能性や現在機能している脳あるいは神経などを損傷し、様々な神経後遺症(意識障害、運動障害、失語、高次脳障害、視野障害など)を生じる危険性もあります。

②血行再建後のバイパス不全

 血行再建の際最も問題となるのは術後の血流不全、つまりバイパスが詰まってしまうことです。最大限の注意を要しますが、術後にバイパスが閉塞した場合、脳梗塞を生じる危険性があります。