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副咽頭間隙腫瘍とは

副咽頭間隙腫瘍とは

   副咽頭間隙とは、咽頭の周囲に存在する顔面、頸部の非常に深いところに位置する部位で、内頚動脈を代表とする非常に大事な血管や神経が奏功しています。副咽頭間隙腫瘍はそこにできる腫瘍の総称で、全頭頸部腫瘍のうち約0.5%前後を占めるといわれ、非常に稀な疾患です。その約90%が良性の腫瘍で、大きくなるまでの経過は長いことが多く、偶然CTやMRIで発見される場合も少なくありません。腫瘍を放置すると徐々に大きくなり咽頭や周囲神経への圧迫が強くなり、やがて顔面表層にまで顔を出してくるようになるケースもあります。

 

※術前MRI画像


 


※術後MRI画像



治療方法

   副咽頭間隙腫瘍のほとんどはゆっくりと大きくなる良性腫瘍で一刻を争って治療しなければならないと言うわけではありません。ではなぜ手術が必要なのか、もしくは手術が必要な症例が存在するのか?以下にその理由を挙げてみます。

1)腫瘍の正確な病理組織が得られますので、良性か悪性かの判断が可能です。
2)良性の腫瘍では全ての腫瘍を摘出することにより治癒が期待されます。
3)たとえ全ての腫瘍を摘出することができなくても、腫瘍の周辺組織への圧迫を軽減することにより症状の軽快が期待できます。

実際の手術(腫瘍摘出術)について

<具体的な方法>

摘出術には大きく2種類あり、1つは頸部からアプローチする方法、もう一つは開頭によるアプローチ法です。
腫瘍が主にどこに存在するかにより選択します。

①頸部からのアプローチ法

  • 全身麻酔下に頸部の皮膚を切開します。
  • 胸鎖乳突筋という比較的大きな筋肉の前方から副咽頭間隙にアプローチします。
  • 腫瘍の大きさ、性状にもよりますが、超音波吸引装置等を用い腫瘍の縮小化を図ります(内減圧)。
  • 腫瘍に接している脳組織や神経、血管等を損傷しないよう、腫瘍と剥離します。
  • 腫瘍の発生母地となっている腫瘍を摘出します。
  • 皮下にドレーンを留置し、皮膚を閉じて手術を終了します。

②開頭による方法
  • 全身麻酔下に皮膚を切開し、頭蓋骨を外します。
  • 腫瘍はほとんどの場合、硬膜外から発生しているため、顕微鏡を用い腫瘍と硬膜の分断を図ります。
  • 腫瘍の大きさにもよりますが、超音波吸引装置等を用い腫瘍の縮小化を図ります(内減圧)。
  • 腫瘍に接している脳組織や神経、血管等を損傷しないよう、腫瘍と剥離します。
  • 腫瘍の発生母地となっている硬膜がある場合、硬膜と腫瘍を摘出します。
  • 頭蓋骨をチタン製のプレートでネジ固定します。
  • 骨膜、筋層ごとに閉じ、皮下にドレーンを留置し、皮膚を閉じて手術を終了します。
※腫瘍の部位や状況によっては、全摘出できないことや、意図的に発生母地である硬膜を含め腫瘍を残存させることもあります

腫瘍摘出術の合併症について

1)手術中、手術後の頭蓋内出血、脳浮腫

 腫瘍摘出術の際最も問題となるのは手術中、手術後の頭蓋内出血と脳腫脹です。元来腫瘍には多くの栄養血管が存在するため出血しやすい性質を持っています。そのため正常の血管に比べ脆弱で出血しやすい特徴があり、手術中および手術後に、出血を生じる可能性があります。また手術侵襲そのものが脳の腫れ(脳浮腫)を助長し更に強い浮腫を合併する危険性があります。術後出血や脳浮腫を合併した場合、生命を脅かす危険性もあり、場合によっては再手術が必要となるケースもあります。


2)脳神経損傷の危険性 

副咽頭間隙腫瘍では下位脳神経と密に接していることが多く、脳神経の損傷が常に危惧され、場合によっては永続的に脳神経症状が持続するケースも存在します。

3)脳梗塞の合併および手術に伴う脳損傷の危険性
 手術中に脳を栄養する血管(動脈)や脳を還流している血管(静脈)を損傷し、脳梗塞を生じる危険性があります。また腫瘍を摘出する際に脳、神経あるいは血管を損傷し、新たな機能障害を生じる危険性もあります。


4)術後けいれん
 脳腫瘍術後はけいれん発作をおこしやすく、術前・術後に渡り抗けいれん剤というお薬をのんでいただくことがあります。それにもかかわらず長期に渡りけいれん発作が持続し、てんかんに陥ってしまうケースもあります。

その他の治療法について

■放射線(ガンマナイフ含む)による治療 

 副咽頭間隙腫瘍に対する放射線治療(ガンマナイフ含む)は、腫瘍の性状により効果の有無が変わってきます。腫瘍が奥深いところに位置するため、手術前に放射線治療を選択することはほとんどありません。しかし、放射線治療が適切であると判断したり、特にガンマナイフを希望される患者さんにはガンマナイフ治療が可能な施設に紹介しています。

※ただしガンマナイフ治療には次の問題点があります。

 ガンマナイフは放射線治療です。従来の放射線治療法との違いはコンピューターで計算し腫瘍部分に高い放射線量が当たるように工夫されたところです。こうした放射線被曝の面より腫瘍の大きさが3cm以下でないとガンマナイフ治療の効果は低くなると言われています。また3cm以下であってもガンマナイフにより正常の脳に対してもある程度の放射線を受けることになります。特に腫瘍の近くではかなりの量の放射線被曝する場合もあると考えられます。放射線の影響はかなり長期間・数十年以上にわたり残り、放射線の副作用(脳の変性・機能障害)が出現、進行しうる可能性が最近指摘されています。とくに患者さんの年齢が若い場合、注意を要すると考えられます。 
 また、術前良性と考えられた症例であっても、手術の結果他の腫瘍であることがあります。従って腫瘍の場合摘出標本の病理学的検討が望ましいと考えられます。ガンマナイフ治療では腫瘍を摘出しないため腫瘍の病理学的検査が施行できず最終的な病理学的診断ができません。

腫瘍の再発の可能性について

 腫瘍を肉眼的に全部摘出できたとしても、いままでの統計によれば10年間に約1020%の確率で再発する可能性があるといわれています。やむを得ず腫瘍を残さなければならなかった場合では5年前後で約3050%に再発があり得るといわれています。

悪性である可能性、他の腫瘍である可能性について

 髄膜腫は一般に良性の腫瘍ですが、その数%に悪性のものがあるといわれています。また最初は良性であっても後に悪性化する場合もあります。そのほか、手術前の検査の結果髄膜腫であると考えられても実際に腫瘍を摘出して病理検査の結果他の種類の腫瘍である可能性もあります。これらについては手術後に摘出した腫瘍を病理検査して結果を後日お知らせします。