脳幹部海綿状血管腫とは
海綿状血管腫とは
海綿状血管腫は血管腫という名称ですが、脳腫瘍の分類ではありません。ですので、出血さえしなければ治療の対象にはならない疾患です。しかも単発症例ではその出血率は年間1%にも満たず、ほぼ経過観察のみで良いとされています。
ただし、出血や、痙攣による発症で見つかった場合は外科的治療が必要な場合があります。その典型例が脳幹部海綿状血管腫です。
脳幹とは中脳、橋、延髄と呼ばれる部位からなり、大脳半球に比べ非常に小さいのですが、命の中枢と呼ばれるほど大事な器官です。ここで出血をきたすと様々な症状を呈しますが、少量でも生命に関わる危険が生じます。また、単発で、偶発的に発見された海綿状血管腫とは違い、脳幹部海綿状血管腫の再出血率は他の部位に比べ非常に高いため、出血を数回繰り返しているような症例については積極的な治療、つまり手術が考慮されます。
出血発症の場合、症状は単なる頭痛から、脳神経麻痺による複視や麻痺、出血量が多いと意識障害まで様々な症状をきたします。さらに、腫瘍を放置すると再出血の可能性があり、その場合、生命に危険を及ぼすようになるケースもあります。
治療方法
海綿状血管腫に対する放射線治療は効果が無いと言われているため、再出血を予防する唯一の治療は手術による摘出術のみです。
実際の手術(開頭腫瘍摘出術)について
<具体的な方法>
- 全身麻酔下に横たわるような姿勢を取り、体位を固定します(側臥位と言います)。
- 耳の後ろにC型の皮膚切開線を置いて、開頭し、頭蓋骨をドリルにて外します。
- 硬膜を切開し、小脳に到達し、その奥にある脳幹に到達します。
- 脳幹に安全に切り込める部位(三叉神経出口の上下等、セーフエントリーゾン)
- 腫瘍に接している脳組織や神経、血管等を損傷しないよう、腫瘍と剥離し一塊に摘出します。
- 硬膜を縫合し、頭蓋骨をチタン製のプレートでネジ固定します。
- 骨膜、筋層ごとに閉じ、皮下にドレーンを留置し、皮膚を閉じて手術を終了します。
開頭による腫瘍摘出術の合併症について
①手術中、手術後の頭蓋内出血、脳浮腫腫瘍摘出術の際最も問題となるのは手術中、手術後の頭蓋内出血と脳腫脹です。元来腫瘍には多くの栄養血管が存在するため出血しやすい性質を持っています。そのため正常の血管に比べ脆弱で出血しやすい特徴があり、手術中および手術後に、出血を生じる可能性があります。また手術侵襲そのものが脳の腫れ(脳浮腫)を助長し更に強い浮腫を合併する危険性があります。術後出血や脳浮腫を合併した場合、生命を脅かす危険性もあり、場合によっては再手術が必要となるケースもあります。
②脳梗塞の合併および手術に伴う脳損傷の危険性
手術中に脳を栄養する血管(動脈)や脳を還流している血管(静脈)を損傷し、脳梗塞を生じる危険性があります。また腫瘍を摘出する際に脳、神経あるいは血管を損傷し、新たな機能障害を生じる危険性もあります。
③脳幹のダメージの危険性
セーフエントリーゾンと呼ばれる部位より脳幹に切り込み、病変部に到達するのですが、それでも脳幹には非常に多くの神経核や意識中枢に関与する線維が奏功しているため、術後に脳幹障害をきたす危険性が若干ですがあります。
その他の治療法について
■放射線による治療
先にも述べましたが、海綿状血管腫に対する放射線治療は、ガンマナイフを含め、今のところ効果が無いことが知られています。
悪性である可能性、他の腫瘍である可能性について
海綿状血管腫は、先に述べたとおり脳腫瘍の分類ではなく、過誤腫と呼ばれるものですが、手術前の検査の結果海綿状血管腫であると考えられても実際に腫瘍を摘出して病理検査の結果他の種類の腫瘍である可能性もあります。これらについては手術後に摘出した腫瘍を病理検査して結果を後日お知らせします。